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フレコンって何?
“フレコン”は「フレキシブルコンテナ」の略で、ごく簡単に言えば、大きな袋です。原材料は「ポリプロピレン」、新聞紙や雑誌をしばるときに使う、薄くて軽いのに切れにくいヒモと同じ素材です。これを編んで作った大きな袋だけに、特徴は、軽い上に強いこと。大きさ約1立方メートル、ざっくり1000㎏まで入れられる袋が一般的で、この袋の重さもたったの約2kgです。約1トン入るから「トンバック」「トン袋」などと呼ばれることもあります。
全農のフレコン
フレコンって何の役に立つの?
粉や粒状のものを運ぶ時に役立ちます(編んであるため水をはじめとする液体は運べません)。ビニール袋と違って破れにくく、使い捨てにするしかない紙袋に比べ何度も使え経済的です。柔軟な(フレキシブルな)袋なので、金属や木でできた容器と違い、使っていないときは小さく折りたたんで保管できることも特徴。フレコンは何度も使えるからエコで、かつ輸送費や保管費の削減にもつながります。
フレコンによって紙資源の消費を大幅に減らせる!
フレコンの導入によって変わるのは、我々消費者の目には触れない「お米の流通現場」です。まず、紙資源の無駄遣いを劇的に減らせます。米穀業界では今まで「原料玄米」(籾殻はとってあるが精米はしていないお米)を紙袋に入れて運んでいました。国内では年間約468万トンのお米が流通しており(※1)、その51%にあたる約238万トンが紙袋で流通していたのです(※2)。これを再利用可能なフレコンに変えることで、何と年間約1万8000トンもの紙資源を削減できます(※3)。
※1農林水産省「米取引における事前契約の現状と課題について」より。
※2東洋ライスが農林水産省へメールにて問い合わせた結果。
※3東洋ライスの試算。紙袋1袋あたりの重量を232gとして計算。
筆者が紙の需要を調べてみると、2020年に日本国内では、合計約2300万トンの紙が生産されました。米袋の紙、約1万8000トンが減らせるということは、国内で使われる段ボール、新聞紙、様々な製品の包装紙、書類など、ありとあらゆる紙の約1500分の1相当量を減らせる計算になります(筆者調べ)。
フレコンの導入で生産者や流通業者にも利益が
お米1俵(60kg)あたりの包装資材費は、紙袋が160円、フレコンは100円程度と計算できます。すると、原料玄米の流通に必要な包装資材費を業界全体で年間約23億8680万円削減できます。
また、紙袋に入った原料玄米は「その中の1kgだけ精米したい」といった使い方ができません。これにより、今までは全国で年間約28億円分ものロスが出ていました。加えて、紙袋でお米を運ぶと、お米を出しても少し袋に残ります。これにより全国で年間3000万円分のロスが出ていましたが(※4)、いずれもフレコン化により防げます。合わせれば年間50億円以上のロスを防げる計算になります。
※4紙袋1袋(30kg)あたり残米による廃棄米を2gとして計算。
紙袋をなくせる理由は「技術力の進化」
今までフレコンが普及しなかった理由は3つあります。まず、小規模の生産者や集荷場には、お米をフレコンに詰める設備がありません。次に、紙袋は高く積み上げることができますが、フレコンは積み上げられないため輸送や貯蔵がしにくかったのです。さらに、精米工場は一般的に多品種少量生産を行っているため、お米がフレコンのような大きな袋で運ばれてくると、使い切れずロスが出てしまいます。
ところが、東洋ライスの雜賀社長が新たなフレコン充填装置を開発したことで「集荷場や小規模生産者にはお米をフレコンに詰める設備がない」という問題が解決しました。次の「積み上げられない」問題も、全農等が普及を進める新形態の「角型フレコン」を使えば、むしろ紙袋以上に積み上げることが可能となります。最後の「多品種少量生産をしにくい」問題も解決しました。東洋ライスがお米を貯めておくタンクを改良し「こめびつ方式タンクシステム」を開発。フレコンからこのタンクにお米を入れれば、紙袋でしか対応できなかった少量単位でも、必要な量の原料玄米を出し入れできるようになったのです。
設備費用は「100億円基金」でまかなう
この進化を達成するための費用も、合理的な方法で捻出されます。まず、東洋ライスが100億円もの基金を用意。これによりフレコン充填装置や「こめびつ方式タンクシステム」を全国に普及させます。そして、フレコン化により利益が増えれば、産地や精米工場の費用負担なく紙袋をなくすことができます。
現場の評判は?
JA佐久浅間は2021年秋から原料玄米をフレコンに詰め替える設備をパイロット的に導入しました。来期以降、生産者にフレコンを支給することで、完全なフレコン化を目指すそうです。フレコンにすることで、トラックの運転手さんの負担が大きく減ります。具体的には、紙袋を荷台に担ぎ上げる作業、また精米工場で一袋ずつ開封する作業がなくなるのです。また、フォークリフトで積み下ろしを行う回数も劇的に減少し、時間だけでなく、フォークリフトの消耗品(タイヤの摩耗など)も抑えることができます。このため同組合からは「作業負担の軽減にもなる」「人手不足、働き方改革の時代にこの進化は大助かり」といった声が出ているそう。また「これで世界的な動きになっているSDGsへの対応もできる」と喜ばれているそうです。
【まとめ】
一般化した規格を変えるのは困難なものです。例えば鉄道でも、明治日本はレールの幅が狭い「狭軌」を採用してしまい、レール幅が広い新幹線が開通するまで諸外国のような高速列車を走らせることができませんでした。広まった何かは、時代の変わり目に、誰かが旗振り役をつとめなければ変えられないのです。その点「SDGs」「働き方改革」といった言葉が登場した現在はお米の流通を変える絶好のチャンスであり、ここで技術的な課題をクリアし、基金も用意した東洋ライス、角型フレコンの普及を行う全農の努力には、編集長・夏目も頭が下がります。「こめペディア」では、この進化の結果や現場の声も、将来、報じていく予定です。
(取材/文・夏目幸明)