2011年6月、東日本大震災からの復旧作業を行う農協のボランティア。
組織が多い理由は「農業者のためなら何でもやる」から
JA(農業協同組合)は国民のほぼ10人に1人が加入する”超巨大組織”です。農業を仕事にしている「正組合員」は400万人以上、農業以外を仕事にしているけれど農協の事業を利用することで農業・農協を応援している「准組合員」は、600万人以上、合わせて1000万人以上の方が加入しています。
ズバリ、何のためにある組織なんでしょう。話を聞かせてくれたのは、JA全中広報部の米田さんです。
「みんなで力を合わせたほうがいいことってたくさんありますよね。農業者も同じなんです。例えば農畜産物を売る時も、農業者の方ひとりひとりがスーパーや飲食店さんと交渉して売っていたら、非常に時間がかかるし交渉力も弱くなってしまいますよね。スーパー側も手間がかかるでしょう。そこで、全国各地のJAが農業者さんから農畜産物をお預かりし、販売しているんです」
だから、スーパーに行くと地域の名前を冠した「JA△△」と書いてある農畜産物が売っているんですね。米田さんによると、JAグループはもっと多くのことを行っています。
「例えば営農に必要な機械や農産物の種や畜産動物の飼料は、みんなで買ったほうがお得です。一般的に、仕入れの量が多くなるほど、1つあたりの値段は安くなりますからね。このような“経済事業”はJA全農が中心となって各団体で行っています。
また、誰かが農機を買う時に、機械を買いたい人にお金を貸す金融機関があればもっと便利ですよね。この“信用事業”は農林中金が中心となって各団体で行っています」
普通の会社は、社会に貢献しつつ、利益を出すために存在します。一方、JAグループは利益の追求でなく、組合員の生活や営農を守り、向上させるための組織なのだそう。
「これまで、農業者のためになることであれば、何でもやってきました(笑)。だから、いろんな組織が生まれ、農業者でない方が見たら複雑な組織になったのかもしれませんね」
始めたのは、校庭にいた「あの人」
組織の説明の前に、豆知識をひとつ。農協のもととなる組織をつくったのは、実は、とても有名な人物なのです。
江戸時代の末期、相模国(現在の神奈川県)に貧しい少年がいました。洪水で田畑も家も失い、働き過ぎた父は病死、次いで母も亡くしますが、少年は勉強を欠かさず薪を運びながら本を読んだと言われています。そして大人になると、彼は農業の生産量が増えるよう周囲を指導し始め、お殿様から「この地域を助けてやってくれ」と頼られるほどの存在になります。その後、彼はこの天候の場合はこの作物を植えたほうがよいと指導するなど農業の発展に尽くし、同時に“災害に遭った人をみんなで助ける”といった相互扶助の仕組みを整えていきます。
この少年の名は二宮金次郎(大人になってからは二宮尊徳)。そう、全国の学校の校庭で銅像や石像になって、今も薪を運びながら本を読んでいるアノ人なんです。米田さんが話します。
「彼の活躍をきっかけに、相互扶助の精神をもった協同組合組織が全国各地で活動し、それらが農協という組織の源となったと言われています。我々農協は、本当に“みんなの力で生まれた組織”なんだなと思います」
二宮尊徳さんの像。幕末期、勝海舟にも会って、勝さんから「至って正直な人だったよ」と評価されています。
保存版!JAグループの組織図はこれ!
ではここで本題であるJAグループの組織の解説を始めましょう。
上の図をご覧下さい。まず左上にある「JA全中」はJAグループを代表する機能をもつ組織です。「全国農業協同組合中央会」の略で、この取材を受けてくださった米田さんも全中の方。この組織はJAグループの今後の戦略を決めたり、JAグループが全国で使う情報システムをつくるなど、まさに「中央」としての仕事を行う組織と考えればいいでしょう。
次に「JA全農」。正式名称は「全国農業協同組合連合会」です。この組織が行うのは「経済事業」、具体的には農業機械や種や苗を買ったり、組合員の農畜産物を販売したり、といった事業を行っています。有名な「パールライス」も、この組織の中にある「全農パールライス株式会社」が販売しているもの。お米や野菜を食べる側とも関連するのがこの事業でしょう。
ここで米田さんに聞きました。JA全中、JA全農、両方とも、円の中心近くに「JA都道府県中央会」とか「県JA」とか、全国の都道府県別っぽい組織がありますね。これは何なんですか?
「農業は地域によって大きく異なります。北海道と沖縄では、同じ農畜産物でも育て方は大きく異なりますし、まったく別の農畜産物もつくられます。だから、全国で活動する大きな組織も必要ですが、それぞれの地元で、地元の農業者や地域住民の皆さんと共に歩む組織も必要なんです。だから農畜産物も、県単位のJAグループ○○(都道府県名)のブランドとして売ることもあれば、より地域に密着したJA単位のものとして売ることもあるんですよ。一方で、我々のような全国連(全農、共済連、農林中金など)は、全国各地のJAや県単位の活動を支え、ひいては組合員のためになるように、各事業を行っています」
では次に行きましょう。JA全農の右下にあるJA共済連は、おもに保険の仕組みを活用した共済商品を取り扱っています。例えば農作業中に生じる傷害にかかる共済商品などを販売しています。
その右の「農林中金」は、かみ砕けば銀行のような事業を行っています。様々な地域にある「JAバンク」が、農業機械を買おうと考えている人にお金を貸したり、貯金を預かったりします。この部分は地域の事情に詳しいほうがよいので、全国各地にある「JA」の仕事。そして、全国規模の組織である「農林中金」が、預かったお金を海外で運用するなど、全国規模の事業を行います。
その右の「日本農業新聞」は、その名の通り、農業者の方たちが知りたい情報を扱っている新聞社です。「家の光協会」は出版部門を担当しています。そして「農協観光」は、農業者の方たちのレジャーとなる観光事業をおこなっているほか、一般の方たちに向け、自然体験などいわゆる「グリーンツーリズム」と言われる商品も扱っています。他の旅行会社にはない特徴と言えますね。
そして最後のJA全厚連は、おもに全国各地で病院を運営しています。JAの組合員以外の方も受診できますが、JA全厚連の病院はその約43%が人口5万人未満の市町村に立地しており、主に農業者の方たちやその家族の健康を守っています。小さな街にも病院があったほうがいいですよね。ここにJAの「志」を感じます。
そして、これらの組織は皆、根本に「助け合い」の精神を持っています。
「災害が起こると、私を含め様々な職員が復旧のお手伝いに駆けつけます(このページトップの写真はその現場)。今、災害復旧に行くと、東北から駆けつけてきた職員が多く、みんな口々に『東日本大震災の時に助けられたから今度は自分が助ける番だ』と話すんです。涙が出そうになりました」(米田さん)
現代の助け合いは「国消国産」
最後に、米田さんに「JAの組織を知りたかった読者に何か伝えたいことはありますか?」と伺うと、米田さんはこんな話をします。
「私たちが最も伝えたいのは“国消国産”という言葉です。『国民が必要とし、消費する食料は、できるだけ自分たちの国で生産する』ことを意味します。農業は、自分たちの国と文化を守るために大切な産業です。だから読者の皆さんには、少し意識的に日本の農畜産物を召し上がっていただけたら嬉しいんですね」
これは農業者の方だけでなく、農畜産物を消費する側にとっても大切なことです。2022年初頭「今後は小麦の価格が高くなる」といったニュースが世界を駆け巡りました。ロシアが侵攻したウクライナはヨーロッパを代表する小麦の産地、不幸な争いにより小麦が収穫しにくくなってしまったのです。もし、日本の農業が衰退し、そのあと世界的な戦争が起きれば……考えるまでもなく、日本人は飢えてしまいます。
「しかも、日本の食糧自給率は、先進国の中で最下位となる約37%なんです。そこで私たちは“国消国産”という言葉をもっと浸透させ、日本の農業を盛り上げるべく動いています」(米田さん)
実は、この“国消国産”に敏感な反応を見せているのは若い世代。少しずつ「どうせ食べるなら日本の農畜産物を食べよう」といった動きが出てきていると言います。
「これは嬉しい反応ですよね。それに、私たち日本人がつくった農畜産物は、日本人の口に合うように農家の皆さんの努力が重ねられていて、私もとってもおいしいと自負しています。だから読者の皆様も、もし迷ったらぜひ日本のおいしい農畜産物を召し上がっていただきたいですね」(米田さん)
これぞ、今日からでも可能な「日本のためにできること」、私たちもぜひ、農協の理念である「助け合い」に“食べて貢献”したいものですね。最後に蛇足で、米田さんに「いいお名前ですね、さすがJAにお勤めというか」と話を振ると、米田さんはうれしそうに「そうなんです、たまに突っ込まれるんですよ (笑)」と笑顔で答えてくれました。
(取材/文 夏目幸明)
JAグループが作成した「国産国消」を訴えるポスター