「コシヒカリ」はなぜ有名に?驚きの歴史と人気のわけ。

日本で一番有名で、日本で一番たくさん作られているお米、それがコシヒカリ。そんなコシヒカリは、かつて失敗品種として消える運命にあったことをご存知ですか?今回は、コシヒカリが完成するまでの物語や人気の理由について、たっぷりレポートします!


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コシヒカリはどこで生まれた?名前の由来とは?

お米には300以上の銘柄があると言われますが、その中で戦後最大のヒット米であり、現在も一番たくさん売れているお米がコシヒカリ。それまで一番人気だったササニシキと入れ替わるようにトップの座を勝ち取りました。作付面積は日本全体で506,679haと2位ひとめぼれの134,368haを大きく引き離して堂々の1位。これは日本全国にある田んぼの約3分の1でコシヒカリが作られている計算です。(※2016年 農業・食品産業技術総合研究機構調べ)令和に入ってからは生産量を絞ったブランド米などのブームも起こっていますが、流行が変わっても今なお不動の人気を誇るコシヒカリは、どのように生まれてきたのでしょうか?

多収米が全盛の時代に、味にこだわったコシヒカリの研究が始められた

コシヒカリの歴史は、第二次世界大戦下の1944年、新潟県の農業試験場で「農林22号」「農林1号」を交配した品種改良を行ったことにはじまります。しかし戦争の状況悪化で一旦栽培は見送られました。終戦後の日本は食糧難のため、たくさん収穫できるお米を作る研究が盛んになります。福井県の農林試験場で新潟県での改良を引きついだ研究が再開され、1952年に「越南17号」が誕生。これがコシヒカリのもととなります。「越南17号」は収穫量が多く味も良いのですが病気にかかりやすく、稲が倒れやすいという欠点がありました。味よりも安定して収穫できることが重視される時代でもあり、これでは将来性はないと見捨てる意見が多数を占める中、一部の研究者が改良を続けました。その結果、「とれ高よりも、ご飯の味が注目される時代が来るのでは」と予測した新潟県により、1956年に新潟県の奨励品種として採用されることが決まったのです。
コシヒカリ誕生にかかわった新潟県と福井県の両県にまたがる地方は昔、「越後(えちご)」と呼ばれていました。そこで品種名には「越」の字を読み替えた「コシ」の国の光り輝く品種という願いをこめて、「越光=コシヒカリ」が採用されました。

コシヒカリは市場に出てからも品種改良をかさねています。病気に弱い点やくきが長くて倒れやすい問題も、生産者の努力も加わり改善されてきました。そして、お米の見た目がよく味がとても良いコシヒカリは、消費者の人気を得るようになりました。日本がどんどん豊かになるにつれ、価格や量よりも、おいしいお米を選んで食べる人が多くなったのです。また、粘り気のあるお米を好む人が多くなったことも、コシヒカリ人気の追い風となりました。

消費者からのコシヒカリ人気を知った、全国の農家もまたコシヒカリ栽培へと動きはじめました。過去1番人気のササニシキと比べると手間がかかり未完成と言われるコシヒカリでしたが、北海道と沖縄をのぞく全国で栽培に適していること、気温が高くても低くてもそれなりにお米が実ることなど、魅力もたくさんありました。そして加えて、他のお米よりも高い値段で取引されることは、農家にとってはとてもありがたいことです。戦後日本の消費者が求めるものと生産者の気持ちが合わさったことにより、コシヒカリは生まれ故郷の新潟県と福井県から全国のみならずアメリカなど海外でも栽培されるまでの人気米となっています。

厳しい原種管理により、コシヒカリの味わいが守られている

コシヒカリの味に、よく合う料理は?

コシヒカリは、炊くとひと粒ひと粒がつややかで美しいお米です。そして、うま味がしっかりとして、味が濃いのが特長です。甘みと粘りが強く、香りもとてもよい品種です。そのため少量だけ食べても、「おいしい」と感じることができます。コシヒカリが登場する前においしいお米として1番売れていたササニシキは、あっさりとした味でしたが、家庭で作る料理メニューや嗜好の流行にコシヒカリの味はマッチしていたわけです。なかには毎日食べると飽きると感じる人も、少ないですがいるようです。「かみしめるほどに口の中にうま味や甘みが広がる」と多くの人から愛されています。コシヒカリがおいしい理由は成分分析から科学的にも証明されており、アミロース、アミノペクチン、タンパク質などのバランスがとても良いことに由来しています。アミロースが少ないことで、冷めても硬くなりにくい特長もあります。
作る産地により味の違いはありますが、「令和2年度 米の食味ランキング」では福島県会津産、福島県中通産、新潟県魚沼産、兵庫県県北産など特A評価を連続受賞しているコシヒカリも多く、総じて高い評価を得ています。

白米だけを食べても甘みがありおいしいコシヒカリに、よく合う料理は何でしょうか。味も香りもしっかりしているため、おすすめなのは味の濃い料理です。ハンバーグやカレーライスといった食卓で人気のメニューとあわせるのに最適です。出汁を使った薄味の料理よりも、洋食や肉料理にあいます。また、佃煮や塩辛、明太子ともよくあうので、おむすびにもよいですね。粘り気があり水分が多いコシヒカリは、炊き込みご飯やチャーハン、ちらし寿司などにはむきません。

おいしさで人気のコシヒカリは、近縁米としてたくさんの人気米を生みだしたことでも知られています。あきたこまち・ひとめぼれ・ミルキークイーン・ヒノヒカリ・はなの舞いなど、たくさんの米が登場しました。コシヒカリは日本のブランド米の代名詞として、これからも消費者からも生産者からも愛され続けることでしょう。

新潟県南魚沼のコシヒカリの田

【まとめ】

食糧難の戦後日本に誕生したコシヒカリは、新潟と福井で開発されたお米です。病気になりやすい・倒れやすいといった問題から一度は消えかかった品種でしたが、味の良さとさらなる品種改良により大ヒット米となりました。高度成長期を迎え豊かになった日本の食卓メニューや現代人の好みとよくあうこと、生産者にとっても高価格米は魅力があることなどから、今では北海道と沖縄を除く日本全国ほとんどの地域で栽培され、日本で一番たくさん作られて、日本で一番売れているお米になりました。うま味や香りが強く、見た目の美しいコシヒカリは、味の濃い料理や洋食によく合います。粘り気があるため、チャーハンやすし飯にはむきません。会津産や魚沼産など「食味ランキング」で連続特Aランクを獲得しているものも多く、今後もこの人気は続くでしょう。

(文/n)