【おにぎりの歴史】 おにぎりは2000年前から存在した。稲作伝来=おにぎり誕生?ラップにぎりはいつから? にぎらないおにぎりって?

お米のおいしさを堪能できる日本のソウルフード・おにぎり。食の多様性に寄り添えるエシカルフードとしても世界で注目されています。呼び方の由来は?どこから来て、どこへ向かう?二千年の歴史をちょっとのぞいてみましょう。


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「おにぎり」と「おむすび」呼び方のいわれ

「おにぎり」と「おむすび」あなたはどちらで呼んでいますか?令和の現在、全国的に主流なのは「おにぎり」の方で、「おむすび」は関東~東海道、北陸、中国地方などで優勢です。ちなみに海外では、短く発音しやすい「musubi」が主流になっています。

「おにぎり」の語源は動作そのまま、ごはんを手でギュッと「にぎる」ことから。また、魔除けの意味を込めて「鬼斬り」と呼んだという説もあります。

「おむすび」は少し奥深いです。語源は日本神話にみえる「産巣日神(むすびのかみ)」という神様。ムスは「生ずる」、ヒは「霊力」を表します。この神様がお米に宿ると信じられ、にぎったごはんを「おむすび」と呼ぶようになりました。どこか上品な響きの「おむすび」は、宮中の女房詞にもなっています。

歴史1)古代〜近代のおにぎり

弥生時代

日本のおにぎりの歴史は弥生時代に始まります。「稲作伝来、即おにぎり」だったのですね。今と同じく携帯や保存のため、そして、祈りを捧げる時のお供え物や厄除けに、おにぎりは使われたとみられます。1987年に「日本最古のおにぎり」が石川県の弥生時代の遺跡「チャノバタケ遺跡」で見つかり、これは「ちまき」状の米塊でした。節句でちまきを魔除けに飾る習俗は現代も残っていて、日本人のお米、おにぎりへの聖なる思いが二千年以上変わらないことに驚かされます。

奈良時代

713年に元明天皇の詔で編まれた「常陸国風土記」に、「握飯(にぎりいい)」の語句がみられます。この時代の数少ない文献に出てくるあたり、おにぎりが特別な食べものだったのは間違いありません。

平安時代

おにぎりは現在のイメージに近い卵形に。粘りの強いもち米を使い「屯食(とんじき)」と呼ばれました。普段の食事はアワ、ヒエなどの雑穀が中心だった時代、ピカピカもっちりした米のおにぎりは、人が集まるハレの日のごちそう。宴の下働きにも祝儀として振る舞われました。

鎌倉時代

現代の「うるち米」が広まって米の収量がアップ。おにぎりはますます戦陣食の中心になります。間引き菜を炊き込む菜飯にぎりが普通だった中、1221年の承久の乱では鎌倉幕府側の武士に、ちょっとリッチな「梅干し入りのおにぎり」が配られました。現代も不動の人気の「梅おにぎり」のマリアージュは、これをきっかけに全国に広まったといわれます。

戦国時代(安土桃山時代)

おにぎりは平和な宴の場から野外へ出て行きます。ギュッと固くにぎったおにぎりは、モバイル性に優れ腹持ちも抜群とあって、いくさの際の携行食、武士の出仕や田畑仕事のお弁当に用いられました。

江戸時代

安定した世の中で、おにぎりは庶民にも広がります。旅の携行食や行楽の手弁当、農作業中の食事などで、雑穀とともに普通に食べられるようになりました。

絵師・歌川広重の有名な浮世絵「東海道五十三次」のシリーズでは、竹籠のおにぎりを楽しげにほおばる旅人が描かれています。

元禄期には海苔の養殖が東京湾岸で始まり、おにぎりを「海苔で巻く」新スタイルが生まれました。「白いごはんに黒い海苔」という現在のおにぎりのスタンダードですね。

明治〜大正〜第二次世界大戦

文明開化の世の中。鉄道が開通し、おにぎりも旅に出ます。宇都宮駅で生まれた初の「駅弁」は、竹の皮に包まれた梅おにぎり2個とたくあんで、5銭(現在の千円ほど)でした。おにぎり初の「商品化」でしたが、家のものと変わらないおにぎりでこの価格は、ちょっと抵抗があったかもしれません。

明治は近代的な陸海軍が編成され、おにぎりが兵糧に再登場します。平時にはカレーなど洋食もありましたが、戦闘時や野外演習になると一転「米麦飯1合のおにぎり2個」に。昭和の第二次世界大戦でも最前線食は戦国時代さながらでした。

歴史2)現代のおにぎり

1980年代

コンビニおにぎり登場

今や日常食として欠かせない存在のコンビニおにぎりは、1978年にセブン-イレブンが初めて発売。海苔のパリッとした食感を保つ包装にみんなが驚きました。80年代には全コンビニでおにぎりが主力商品に。おいしい米や具にこだわったおにぎりが24時間買えるようになり、手作りの時代よりおにぎりを食べる機会が増えました。

おにぎりも高級グルメ化 天むすブーム

今も人気の天むす。好景気の1982年頃、おにぎりとしては異例のブームを巻き起こしました。おにぎりと華やかなエビ天の意外なハーモニー、お値段も贅沢。バブル時代のグルメ指向にマッチしたのですね。エビのイメージから「名古屋メシ」とされがちですが、1950年代、三重県津市の天ぷら定食店のまかないが発祥です。

おにぎり用ふりかけ登場

手作りおにぎりにも変化がやってきます。1982年、ごはんに混ぜるだけで多彩なおにぎりができる、おにぎり用ふりかけが登場しました。「行楽のために、見た目も味もカラフルなおにぎりを簡単に作りたい」ニーズから生まれた「おむすび山」(ミツカン)が大ヒット。おにぎりは食べる人だけでなく「作る人の楽しみ」になり、後のデコ弁ブームにもつながりました。

ふりかけのおにぎりが、キャラ弁の登場のきっかけ?

1990〜2000年代

「ラップでおにぎり」定着

平成初期まで、おにぎりは素手でにぎるものでした。「ラップでおにぎり」が一般化したのは1996年以降。同年に全国で起こったO157食中毒事件を機に、衛生観念がコロナ禍並みに大きく変わりました。ラップでにぎることは衛生的であると同時に、ごはん粒がくっつかずにぎりやすい、手を汚さずにすむ、というメリットが大きく、2000年頃には、おにぎりはラップあるいはビニール手袋で、というのが当たり前になったようです。

宇宙に飛び出したおにぎり

2007年、おにぎりが「宇宙食」になりました。国際宇宙ステーションの日本人宇宙飛行士は、長期滞在時の食事で鮭おにぎりを味わっています。特殊技術で乾燥した煮炊き不要のアルファ米を使用したおにぎりで。全く同レシピの市販品もあり、お湯を注げば誰でも宇宙飛行士気分を楽しめます。

2010〜2020年代

おにぎりだけど「おにぎらず」

2014年にブームが起きた、新型の手作りおにぎり。もはやにぎりません。サンドイッチのように海苔とごはんで具を挟みます。アツアツごはんでも火傷せず、具を見せてたっぷり入れられ、丼並みの満足。1991年に人気漫画「クッキングパパ」で発案されたレシピで、15年後にネットで火がつきました。2021年現在、レシピサイトのcookpadで2,425品ものバリエーションがみられます。おにぎりの常識はどこまで変わるのでしょうか。

こちらはマレーシアで販売されているおにぎり

今や世界食「おにぎりはエシカルフード」

近年パリやNY、中でも先端的な人が集まるエリアで、日本のおにぎり専門店が大人気になっています。具が自由で、食事制限のある人や宗教にかかわらず食べられるおにぎりは、欧米で重視される「エシカル消費」にマッチしているのです。海外のどこでも一番人気はツナマヨ。コロナで行ける店が減ったグルテンフリー、ヴィーガンの人たちにも愛されています。

【まとめ】

古代から近代までは、おにぎりは私的なワンマイルフードで、食べる人の顔が見える範囲で作られ、食べられていました。現代になると、おにぎりは「商品」の顔になり、その分、消費も進んだことがわかりました。一方で手作りもしっかり生きていて、おにぎり作りに効率や楽しみを求める人が増えたことも見て取れました。