新潟県南魚沼市の「別格」と言われる塩沢地域に、関家の田んぼはすべてある
5000以上の中から選ばれて
――4年連続で「世界最高米」生産者に選ばれたとのことですが、お米の品評会にはよく参加されているのですか。
関:はい、中でも「世界最高米」は米・食味鑑定士協会主催「米・食味分析鑑定コンクール」の国際総合部門で金賞を受賞したものの中から選ばれるもので、国内外最大のコンクールです。5000以上の出品数の中から金賞を獲得する生産者が17、8人ほど、その狭き門の中からさらに5、6人だけが「世界最高米」生産者と認定されます。
――5000から選ばれるのですか、それはすごい。コンクールはどのように審査されるのですか。
関:食味計を使う第一次審査、味度計を使う第二次審査と、まずは機械による選抜で高得点を得たお米が、最終審査である米・食味鑑定士が実際に食べる官能審査に進むことができます。食味計はお米の中のたんぱく質の量、味度計では保水膜の量をはかります。保水膜はお米の味に深くかかわっていて、本当にいいお米でないと規定の数値がでません。そして金賞の中から、東洋ライスさんというお米の会社が「世界最高米」を選びます。基準は公表されていないのですが、「生命力の高さ」を重視しているそうです。うちのお米が何度も「世界最高米」に選ばれて、毎回「関さんのお米は良いよ」と言っていただけていることは大変に嬉しいですね。
――そのように高い評価を勝ちとれた理由は、どこにあるのでしょう。
関:あくまでも私の推測ですが、種もみから無農薬で育て自家採取した生命力の強い種もみを使っていることがひとつの要因かと思っています。さらにうちでは、無農薬の方法自体にもこだわっており、「ぼかし」という微生物で発酵させたアミノ酸濃度の高い肥料を使っています。
生命力のある、種もみ作り
――おおっ、いよいよ関農園の「世界最高米」の秘密にふみこむことに! では、まず種もみについて教えてください。
関:まず、苗作りのための種もみから自分達で作るのは、とても難しいんです。稲から種もみをとって栽培して、次の年に使えばいいという簡単なものではありません。種もみを育てる田んぼに、1粒でも去年のお米やもみが落ちていたら遺伝子が変わってしまいますし、管理だけでも大変なんですね。だから種もみは、専用で育種されている場所や農協から購入して自分の田んぼにまくのが普通のやり方です。
しかしうちの農園では、納得のいく形の無農薬でやりたいとの考えから、全部自分たちでやっています。うちのいくつもある田んぼの中でも、一番いい田んぼを種もみ用に使っているのですが、種もみ状態から徹底した無農薬で大事にして育てることで、発芽の良さも苗の良さもまったく違います。種が強い、生命力が高いと実感しています。
■手間がかかりすぎても、「ぼかし」肥料を
――種もみ作りから違うわけですか。では、もうひとつの秘密、関農園の無農薬の要となる肥料「ぼかし」について教えてください。
関:「ぼかし」の説明は難しい(笑) まずうちが肥料に、一般的なたい肥ではなく「ぼかし」を使っているのは個人的なこだわりで、たい肥が好きな農家さんもたくさんいらっしゃいます。有機栽培でやってる方は日本中に何百人、何千人といると思うのですが、その中で「ぼかし」でやる人は何人かいるかくらい。作るのもまくのも、手間がかかりすぎて普通の人はやらないですね。
うちでは「ぼかし」は、EM菌という菌を種菌にして米ぬかと魚の粉と、こんぶ、カニ殻の4つの原料を使って作っています。ここにたどり着くまでは、菜種カスを使ってみたりと、いろいろと研究しました。うちは廃棄物などは使わず、魚も質や鮮度の良い状態で乾燥処理されたのものだけを使っているので、魚の粉からはかつお節みたいなにおいがするんですよ。本当の「ぼかし」は、食べることができるくらいの状態から発酵させて作るのです。
――「ぼかし」って何だか、ぬか床みたいですね。
関:「ぼかし」とぬか床って、ものすごく似てるんです。こぬかだけで作ると、ぬか床になります。うちでは「ぼかし」を追求する中で植物性の原料主体で作っていたときもありました。するとすごく“優しい米”になって、お客さんが驚くくらいの透明感とツヤがある上品な味に仕上がりました。それはそれでいいお米ではあったのですが、目標である「日本一おいしい米」のためには、ツヤはそのまま維持しつつ、もう少しインパクトのある、うまみや香りを引き出したかった。その追求の結果、植物性原料や動物性原料など試行錯誤を繰り返し、納得のいくものにたどりつきました。
お米のコンクールでは最終で審査員による官能審査があるのですが、お米は味だけでなくうまみと香りをもっと追求しようと研究を続けた結果が、6年連続受賞につながったのだと思います。
ボカシ肥料を田んぼに撒くととてもたくさんのミジンコや糸ミミズ、また微生物が発生し命の循環が育まれます。
それらは子孫を残しやがて息絶えますがその亡骸や排出物こそが最も良質なアミノ酸であると考えています。「こうゆう田んぼから獲れるお米は美味しいお米が出来るだろうな。とか、体に良いお米ができるんだろうな」
という気持ちになります。
たくさんの命の循環が行われる田んぼからは生命力の高いお米が出来るような気がします。
真似ができない大変さ、だからこそ
――関農園の「ぼかし」もまた、特別なのですね。「ぼかし」の大変さは手間がかかることですか。
関:「ぼかし」はたい肥と違って、忙しい田植え時期だろうと関係なく1年中毎日ずっと作業を続けなければいけません。17ヘクタールの田んぼのためには、200個近いドラム缶を用意して、そこで1年以上熟成させた「ぼかし」が必要になります。しかも、まくときにはドラム缶の中でガチガチに固まっているのを、スコップなんかで掻き出すしかなく、さらに手作業で計測して袋に小分けして、トラックに載せて運んで、トラクターでまく。ドラム缶から出したり計量したり等はたい肥のように機械を使うことができないので、従業員もみんな大変。それはもう、むちゃくちゃに手間がかかります。けれども、ここまで大変だからこそ他の人には真似できない。簡単だったらすぐに他の人もやってしまうわけで、大変だけど何とかして大規模でできないかを追求していかないと、上にはいけないんだと考えて挑戦しています。
――大変さこそが、秘密であり、真似できない味へとつながっているのですね。
関さんが作ったお米は、どんな時に食べてもらいたいですか
関:「世界最高米」は特別なお米なので、ちょっと特別な日に食べてもらえるとうれしいですね。とにかくうまみを重視したお米で、うまみの中に雑味もあるんですけど、それも含めてうまみがすごい。うまみ成分を残すために浅めに精米していますので、色はちょっと黄色っぽいのですが、つやや透明感よりもうまみと香り、そして栄養価の高さを感じてください。
【まとめ】
5000から選ばれて「世界最高米」に認定されるためには、種もみ作りから「ぼかし」肥料まで普通ではやらないほどの手間がかかっていることが分かりました。「真似できないほどの手間だからいいのだ」という言葉は、心に響きました。取材にご協力いただき、ありがとうございました。(文/N)