大切なのは“浸漬(しんせき)”時間
精米のお話を伺ったとき、我々・「こめペディア」編集部の面々に「お米に関する誤解を解きたい」とおっしゃる方がいました。彼はのっけから衝撃的な内容を口にします。
「日本中のご飯のほとんどは、浸漬時間(お水に浸けておく時間)が足りていないんです。よく“夏は30分、冬なら1時間”と言いますが、私は季節に関わらず“2時間以上”をおすすめしています」
その理由を知るには、少しだけ“お米の科学”を知る必要があります。
お米の主成分は「でんぷん」です。そして、でんぷんには2つの状態があります。
水分が少ないため腐りにくいけれど、人間が食べても消化しにくい状態、いわゆる生米の状態のでんぷんで、これは「ベータでんぷん」と呼ばれます。
一方、水分を吸収し、加熱され、人間が消化しやすくなったでんぷんは「アルファでんぷん」と呼ばれます。
すなわち、消化しやすいお米を食べるためには、ベータでんぷんをアルファでんぷんに変える「アルファ化」と呼ばれる作業が必要なのです。アルファ化は「糊化」とも言います。難しいものでなく、私たちが毎日のように行っている「炊飯」は、難しく言うと米のでんぷんの「アルファ化(糊化)」だったのです。
これは余談であり、かつ編集長・夏目の私見ですが――人間は栄養にしやすいものを「おいしい!」と感じ、しにくいものは「あんまり……」と感じる傾向があると感じます。炊いていないお米(生米)は、消化に時間がかかります。一方、お米のでんぷんにお水を含ませて加熱すると、消化しやすくなります。生米より炊いたご飯のほうがおいしいのは、お米のでんぷんが消化されやすい状態になったからなのでしょう。
閑話休題、そんな「糊化」に必要なものは「お水」と「熱」です。「熱」は火加減を行えば調節できますが「お水」はそうもいきません。
「お米は30分~1時間ほど浸漬すればお水を含んで白くなってきます。しかしこの状態では、お米の芯まではお水を含んでいないのです。ご飯の中心部までしっかりお水を含ませ、アルファ化させるためには、浸漬時間が2時間ほど必要です」
浸漬時間が短いお米を炊くと、中心部は“加熱した生米”と似た状態にしかならず、おいしくもなければ、消化もよくないのです。さらに、浸漬する時にもポイントがあると言います。
「温かいお水で浸漬すると浸漬時間が短く済む、と言われています。その通りで、逆に冷水で浸漬すると、お米がお水を吸収しきるまでにより多くの時間が必要になります。しかし実験により、ゆっくり時間をかけて浸漬させた方がお米の隅々にまでお水が行き渡るとわかっています。お米にこだわる飲食店が、氷水を使って浸漬するのはそのためです。だから皆さんも、お米の味にこだわるなら冷水に浸漬するか、浸漬しているお水を冷蔵庫にしまってほしいんですね
特に、夏場に長時間浸漬する場合、浸漬しているお水が腐ってしまう場合もあります。それも、冷蔵庫で浸漬していただきたい理由です」
ただし、注意点があります。
「冷蔵庫で浸漬する場合、必ずラップで覆ってほしいのです。お米は目に見えない細かい穴があいていて、他の食品の臭いを吸着します。特に冷蔵庫にキムチや生魚など臭いが強い食品を入れていると、ごはんにその匂いがついてしまうのです」
なお、お米は上限までお水を含むと、それ以上は吸水しなくなります。だから浸漬時間が長くても炊いたご飯がおかゆになってしまうことはありません。よろしければ一度、夜のうちに浸漬を始め、冷蔵庫に入れておき、朝、それを炊く、といった流れご飯を召し上がってみてください!
【まとめ】
炊飯時の水加減も大切ですが、同じくらい浸漬も大切! 皆さんもぜひ、おいしいふっくらご飯を召し上がって下さい。なお、この時にお米の保存に関する話もありました。匂いが強いものの近くにお米を置いておくと、お米が匂いを吸着してしまうのです。僕が愛用するソフラン、とってもいい香りがしますが、ご飯から香ったらちょっと微妙かも。皆様もご注意あれ。