【おすすめ炊飯器がわかる!】炊飯器の歴史と機能と「今」を語ろう

「圧力」「IH」「炭釜」など、炊飯器を選ぶ時には何を決め手にしてよいのか迷いますよね。話がわかりにくくなる理由は“なぜそうするとご飯がおいしく炊けるか”がわかりづらいから。そこで「こめペディア」編集長の夏目が、電気炊飯器の歴史を追いつつ、2021年版・各社の炊飯器の特徴を解説します!


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ソニー創業者のひとり、井深大の戦後試作1号は炊飯器だった

電気炊飯器が登場するまで、日本人は長く、お釜でご飯を炊いてきました。最初の炊飯器は、1902年(明治35年)に開発された「ガスかまど」。1924年(大正13年)には三菱電機が「電化かまど」、現在の電気炊飯器の祖先を開発します。薪のかわりに電気式のヒーターで加熱する構造で、当時は船舶の中で使われていたと言われています。薪を準備し火をつけなくてもよいだけでも大きな進化だったことでしょう。

参考サイト
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/ha/suihanki/history.html

【写真】

三菱電機の記念すべき「電化釜」

当時は「自動制御」が難しい時代だったのです。炊飯は「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火をひいて、ひと握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな」という歌に象徴されるように、お釜の状況を見極めながら細かく火加減を調整することが重要。しかし当時の機械には到底、そんな難しいことはできませんでした。

余談ですが、ソニー創業者のひとり、故・井深大氏が戦後すぐに試作した電化製品の第1号は電気炊飯器でした。木のお櫃(おひつ)にアルミの電極を貼り合わせ、水があるうちは電気が流れて加熱、水分が蒸発するにつれ電流が少なくなり加熱の力が弱まっていく、という仕組みです。しかし火力が弱く、かつ当時の電力は電圧が不安定で、時にはお米の芯が残ったり、逆にお粥のようになったり、上手に炊けるほうが珍しいありさまだったそうです。

参考サイト
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/1-01.html

これがソニー・井深さんが試作した炊飯器

ただしこれは「電気炊飯器とは、あの井深大さんも挑戦するほど複雑なもの」という事実を示しているのでしょう。その後、井深さんが盛田昭夫さんとともに創業したソニーは「失敗も許容する」ことで大胆な商品開発を行い“世界のソニー”へと駆け上がっていきます。そしてソニーのホームページでも、この釜は「記念すべき失敗作の第1号」という素晴らしい形容で紹介されています。

「圧力」には賛否両論あり

炊飯器が進化、普及し始めたのは昭和の中頃からです。まず、釜が一定の温度に達したら自動で電源が切れる電気炊飯器が誕生しました。金属は熱を加えると膨張します。そこで、一定の温度に達したら膨張した金属がスイッチを切る、といった工夫で制御を実現したのです。当時はこれだけでも「誰かが見ていなければならなかった」炊飯の仕事が一気に楽になり「家事が毎日1時間短縮される」と言われるほど話題沸騰の商品でした。

ただし、夏と冬では気温が大きく異なります。釜が一定の温度に達しても、すぐ冷えてしまえばお米は上手に炊きあがりません。当時の炊飯器はたまにお米が生煮えになってしまうこともあったようです。

その後、1972年(昭和47年)には、電気炊飯器とご飯を保存する「ジャー」の機能が合体した「炊飯ジャー」が登場、画期的だったのは1979年(昭和54年)に登場した「マイコン炊飯ジャー」でした。特徴は、電気炊飯器に内蔵されたマイクロコンピューターが自動で火加減を調整してくれること。電気炊飯器が初めて「はじめチョロチョロ、中パッパ」の火加減を実現できるようになったのです。中にはおこげをつけたり、おかゆにしたり、様々な炊き方を試せる製品もありました。

それがどれほど画期的だったかは、現在もこの炊飯器がベースになった機種が売られていることからもわかります。数千円の安価な価格帯で販売されている炊飯器の多くは「釜の形が変わる」「保温性が高まる」といった進化はあるものの、当時と同様に釜の下にある電熱器をマイコンで制御し、ご飯を炊きあげています。

次の大きな進化は、1988年(昭和63年)の「マイコンIHジャー炊飯器」の登場です。「IH」は「Induction Heating(電磁誘導加熱)」の略で、その特徴は金属の釜自体が発熱すること。電力で磁界を発生させ、その磁界に金属を置くと、金属内部に電流が流れます。この時、金属固有の抵抗によって金属が熱を帯びます。この方法で熱すると、電気のエネルギーを効率的に使えるのです。それまで、電気炊飯器の泣き所は加熱力の弱さにありました。IHでなく釜の底のヒーターで加熱する機種は、特に3合以上炊く場合、火力の弱さにより釜の中心部や上の方に熱が伝わらず炊きムラができることがあったのです。しかしIHなら心配無用。釜の横側など全面から強力に加熱し、炊きムラをおさえます。また、IHは加熱すべき瞬間、一気に高火力で炊きあげることができます。具体的に言えば「中パッパ」の威力が増し、水が激しい対流を起こすことによってお米がまるで立ち上がるようにふっくら炊けるのです。

一般的に、3合以内の炊飯器を安く買いたいなら「マイコン式」、それ以上炊くの場合はIHのほうがよいといわれています。ただし、IHも1万円程度で買える機種もあり、現在、電気炊飯器の多くはIHになっています。

ここからも炊飯器の進化は続きます。1992年(平成4年)頃から、圧力をかける「圧力IHジャー炊飯器」が普及し始めました。その特徴は、ご飯がもっちりと甘くなること。気圧が高いと水の分子は気体になりにくくなります。このため100度を超えてもグラグラと沸騰して水蒸気にならず、110度、120度と熱くなっていくのです。仮に外圧が2気圧であれば、水は120.6度まで熱くなります。そして水が熱く、圧力も加わっていると、お米のでんぷんは通常より「糊化」するのです。「糊化」の詳しい説明は、記事「【炊飯とお水】“とびきりご飯”を炊く秘訣は「お水&時間」」に譲りますが、簡単に言えば、お米のでんぷんが通常の炊飯よりもっと消化しやすく、人間が甘く感じやすいでんぷんになります。感覚的に言えば、もっちりした粘りけがあるご飯になるのです。

ただし、評価はわかれます。圧力をかけるとお米の粒感が損なわれる、と感じる方もいるのです。「ねっとり、もちもちしたご飯より粒感が残るしゃっきりしたご飯のほうがおいしい」と感じる方は、あえて圧力をかけないジャーを選んでもよいはずです。

そして、各社が「釜」の工夫を競う時代へ

そして2000年代以降、各社は高級炊飯器を市場に投入します。そのポイントは「対流」と「釜」の工夫にあります。

まずは「対流」。ここからは、各社の例を見てみましょう。

例えば象印は「炎舞炊き」によりご飯のおいしさを追求しています。炊飯器底のヒーターを3か所に分け、一部を強く加熱することで炎のゆらぎを再現しているのです。これにより釜の中の水が複雑な対流を起こし、結果、お米が激しく“舞い”、お米一粒一粒に熱を伝えムラのない炊き上がりを実現しています。

https://www.zojirushi.co.jp/syohin/ricecooker/sp_contents/enbudaki/#container

また、パナソニックの「Wおどり炊き」は、様々な位置から大火力で加熱して対流を起こし、同時に加圧と減圧を繰り返してより激しい対流を起こし、お米をおどらせています。

https://panasonic.jp/suihan/21features/odori.html

そして、各社がこれと同様の工夫をしているのです。「本炭釜」で高級炊飯器の市場をつくった三菱電機は、内釜を包み込む5つヒーター、さらに底面の「トリプルリングIH」、合計8つのヒーターで釜の中のお米全体に熱を伝えつつ強火を保ち、水を沸騰させ続け、強い対流を持続させています。(ちなみに同社は「圧力をかけない炊飯」を特徴としているため、圧力ジャーのお米は好みじゃない、という方にもおすすめです)

すなわち、各社それぞれの方法は違えど、「強い対流を起こす」という基本線は同じなのです。

次は「釜」。例えはタイガー魔法瓶は「土鍋圧力IHジャー炊飯器」を販売しています。土鍋は蓄熱性が高く、遠赤外線効果も持っています。土鍋が蓄えた熱は遠赤外線となり、炭火のように食材の旨みをじっくりと引き出すのです。また、泡が土鍋ならではの均一で細かく、かつ大量の泡になるため、これがお米の表面を守り、ご飯がツヤッと仕上がります。

https://www.tiger.jp/product/ricecooker/JPL-G/donabe.html

また三菱電機の釜は、先に説明した「本炭釜」。こちらはIHの磁力線で加熱した時、素早く発熱する「炭」を使うことにより内部を高温に保ち、かつ炭ならではの遠赤外線効果も加わり、お米の芯までしっかり加熱します。さらには釜底が激しい熱対流を起こす形状となっており、強い対流の維持に一役買っています。

炊飯器を選ぶ時は実際に炊いて比べることは難しいため、そのポイントは……

・IHかどうか
・圧力をかけるかどうか
・対流を起こす仕組みは強力か
・釜の素材や形状に工夫があるか

この4点を比較し、その理屈に納得いくものを買う、といった選び方になるでしょう。

また、これとは別のアプローチをする企業もあります。日立の炊飯器は「沸騰鉄釜」を使い“高火力で炊きあげ底面の形状で沸騰を連続させる”といった工夫は他社と同様。しかしこれに加え、蒸らしの時に高温のスチームで仕上げています。これにより、粒の輪郭はハッキリ、甘さは強く、といった今までの炊飯器にはなかった炊きあがりを実現しています。

https://kadenfan.hitachi.co.jp/kitchen/lineup/rzw100dm/feature01.html?no=5

東芝の炊飯器も、他社同様にIHと釜の工夫で強い対流を起こしていますが、これに加え「釜の中を真空にする」機能を持っています。真空状態をつくることでお米を水に浸す「浸漬」時間を短くでき、保温の時もお米の酸化を防げるのです。日立、東芝は、グループ内に様々な技術があるため、そのシナジーでこのような独自の機能を開発できるのでしょう。

https://www.toshiba-lifestyle.co.jp/living/rice_cookers/pickup/special/water_absorption/

炊飯器選びの際は、これらの仕組みを一通り頭に入れ、ショッピングサイトの評判を見たり、お店の方の説明を聞くことがポイントです!