ロウカット玄米はダイエットによい?栄養は?炊き方は?-栄養は玄米、味は白米、その実力やいかに-

お米のメディア「こめペディア」、今回の記事は、精米機の取材でお世話になった東洋ライスさんのお米『金芽ロウカット玄米』についてです。そもそもロウカットって何ですか? 炊き方は難しい? 開発者である雜賀慶二(さいかけいじ)社長に、編集長の夏目がお話を伺いました。


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日本人は精米で健康に!?

夏目 ズバリ“ロウカット”ってどういう意味ですか?
雜賀 玄米の外側は、硬くて防水性が高い「ロウ層」で保護されています。多くの植物がそうであるように、お米も簡単に食べられないよう種を保護しているんです。

夏目 そういうものなんですね。

雜賀 この部分だけを取り除いたから「ロウカット」と名付けました。栄養豊富で、しかもおいしいんですよ

夏目 その理由をお聞かせください。

雜賀 昔から「玄米は体にいい」と言われています。実際に、精米して玄米を白米にする時に取り除く「糠(ヌカ)」は、ビタミンB1、ビタミンE、食物繊維、γ-オリザノールなど、人が生きていくために必要な栄養素をたくさん含んでいます。

※100g当たりの含有栄養成分
※白米、従来の玄米:日本食品標準成分表(洗米前の数値)
※金芽ロウカット玄米:無洗加工後の数値(一般財団法人食品環境検査協会 調べ)
※γ-オリザノール:公益財団法人日本食品油脂検査協会 調べ
(注)原料となる玄米により若干含有値が異なる

雜賀 だから私は「歴史上、日本人の健康状態は精米の方法によって大きく変わってきた」とも感じています。

夏目 おっと、大きな話ですね。

雜賀 日本人は、江戸時代の終わり頃までヌカが残ったお米を食べてきました。ヌカをとりきる技術がなかったんです。ところが幕末から明治期にかけ、精米機に「磨き砂」を入れて精米した白米が流行りました。これだと米が完全に精白され、炭水化物以外の栄養素がほぼ残らないのです。

――これは栄養学的に言えば最悪の米でした。

夏目 最悪とまで言いますか。

雜賀 日露戦争の時「日本兵は足がフラフラしていた」という話も残っています。原因は「脚気(かっけ)」という病気です。ビタミンB1が不足すると、心不全によって足がむくみ、神経障害によって足がしびれます(夏目注:足に症状が出るため「脚気」と呼ばれていたようです)。さらに症状が進むと「脚気衝心」と呼ばれる症状により死に至ります。
そして、明治時代から大正時代にかけては、結核と並んで“二大国民病”と言われるほど多くの人が脚気にかかって、あまり知られていませんが、年に数千人、場合によっては1万人を超える方が亡くなっているんです。これは「お米の精米しすぎ」、すなわち真っ白なお米を食べたことが原因です。

夏目 玄米やそれに近いお米にはビタミンB1が含まれていたけれど、真っ白に精米すると炭水化物しか残らないから、ビタミンB1が不足してしまったんですね。

雜賀 はい。脚気は最初、江戸で流行しました。当時は原因がわからず、農村の元気な若者が江戸に出て行くと病気になるため、脚気は「江戸わずらい」と呼ばれていました。江戸時代の14代将軍・徳川家茂も、記録から脚気で亡くなったと考えられています。

夏目 ちょっと脚気で検索させて下さい。――わりと“セレブ病”だったんですね。日露戦争の時も、陸軍は戦地に赴く兵士に「せめておいしい食事を与えたい」と白米を食べさせ、結果、脚気が“惨状”と言われるほど流行した、とあります。

雜賀 その後、鈴木梅太郎という学者が「ビタミンB1の不足が原因」、「玄米を食べれば脚気にかからない」と突き止めますが、それでも脚気患者はあまり減りませんでした。なぜかと言えば、白米がおいしかったからです。“白米は高級品”という常識があって、日本人はなかなか白米食をやめなかったんです。

夏目 白米、罪な食べ物ですね。健康診断でお医者さんに「これじゃ糖尿病になりかねませんよ」と言われても多くの人が食生活をなかなか改善できないように、当時の人も、おいしいものはやめられなかったんですね。

雜賀 やっぱり白米はおいしいですよ。実は私自身も玄米より白米が好きで、あの「ふわっ」とした炊きあがりに比べると、玄米のもそもそした食感は苦手です。元々体も弱かったので、玄米を食べると消化しきれずおなかを壊してしまうこともたびたびでした。
そこで“ロウカット玄米”だったんです。

東洋ライスは「医療費が平均の6割だけ」

夏目 ロウ層は玄米の一番外側にあるんですよね。これをカットするとどうなるんですか?

雜賀 白米と似たふわっとした炊きあがりになります。理由は簡単です。玄米の外側にあるロウ層は、ロウソクに使われるロウと性質はほぼ同じです。だからロウ層がついたままの玄米をそのまま炊くと、お米が水を吸収するのを邪魔してしまって、白米のようにふくらまないんですよ。

夏目 とすると、ロウ層だけとってしまえば、玄米の栄養素が残って、かつ白米同様にふんわり炊けるお米ができるわけですね?

雜賀 飲み込みがはやいですね。

一番右が『金芽ロウカット玄米』。白米と同じ大きさにふくらんでいる

夏目 実は玄米、ちょくちょく食べているんです。母が玄米食で、炊飯器を2台使って白米と玄米を炊いて、子供だった僕に「白いごはんと茶色いごはんどっちがいい?」と聞いてくれていたんです。父と姉は白いごはん派で、母と僕は茶色いごはん派でした。

雜賀 食育って大事ですよね。それはお母さんに感謝しなきゃ。

夏目 そういえば父はその後、糖尿が悪化して亡くなって、母は90歳近い今もピンピンしていますね……。

雜賀 それ、お米も影響しているかもしれませんね。玄米はカロリーが少ないんです。お茶碗一杯を基準にすると、白米は168キロカロリーで、玄米は118キロカロリーです。白ごはんに比べ、糖質で32%オフ、カロリーで30%オフです。

夏目 玄米はヌカを含んでいるから、ダイエットにもなる、ってことですね。

雜賀 しかもヌカは栄養豊富です。実を言うとお米は、古代中国では「粳米(こうべい)」と呼ばれる生薬だったんですね。その栄養豊富な部分を「ない方がおいしいから」という理由でとってしまっているのが現在の白米なんです。捨てちゃもったいないんですよ。

夏目 なるほど。

雜賀 もう一つ面白い話があります。米に健康の「康」と書いて「糠(ヌカ)」ですよね。一方、米に白と書くと「粕(かす)」となります。昔の人はどちらが健康によいかわかっていたのかもしれません。
また、私が設立した東洋ライスは“医療費が少ない会社”でもあります。当社の社員食堂のごはんは『金芽ロウカット玄米』や『金芽米』で、自宅でも食べている社員は多いでしょう。そして、社員の医療費は全国平均の約6割しかないんです。社会保険って、こういうことも開示されるんだと驚いた覚えがあります。

夏目 驚くのはそこですか?(笑)

雜賀 医療費の話ももちろん驚きましたよ(笑)。このデータがあるから「玄米は体にいい」というエビデンスにはなりませんが※、“食生活が何らかの影響を与えている”と考えることは可能だと思うんです。

※夏目注:データを「エビデンス=証拠」として扱うには、数十万人の健康状態を数年、時には数十年観察する必要があるため、雜賀社長は「エビデンスとまでは言えない」と話していますが、この医療費の話は面白かったので書いておきました。なお、夏目が探すと下のエビデンスが出てきました。これは、玄米を食べる頻度が高い方は糖尿病になりにくい、という「医学的証拠」です。

難しい説明はリンク先に譲りますが、上記の図は、男性3万9765人、女性15万7463人を対象に白米、玄米摂取と2型糖尿病発症の関連を調べたもの。1日50gの白米を玄米に置き換えると、2型糖尿病発症のリスクが16%低下すると試算されました(Arch Intern Med.2010 14;170:961)。これは米国の研究で、米国政府による「2010 米国人のための食生活ガイドライン」では、炭水化物を多く含む穀物のうち少なくとも半分を全粒穀物からとることを勧めています。なお、HPFSは「医療従事者追跡研究」、NHSは「米国看護師健康調査」を、「Overall」はその両方の結果を示します。

参考:https://www.researchgate.net/figure/Pooled-fixed-effects-relative-risk-and-95-confidence-interval-CI-of-type-2-diabetes_fig1_44673182

炊き方は「普通に炊くだけなんです」

夏目 では、炊き方も知りたいんですが?

雜賀 それが、普通に炊くだけなんです。

夏目 ロウをカットしてあるからですか?

雜賀 はい。だから玄米を炊く時のように“20時間水につけてください”といったことはありません。『金芽ロウカット玄米』は『BG無洗米』の技術も使っているので、お米を洗う必要もありません。白米のように1時間くらい浸漬(「しんせき」、水に浸けること)し、いつも通り、炊飯器や土鍋や圧力鍋などで炊くだけです。
ただ本当は、どんなお米も2時間以上水に浸けてほしいんですけどね(夏目注:この話も面白かったので、近々記事にします)。

夏目 ちなみに玄米は消化が悪いのが欠点と言われていますが、その点はどうですか?

雜賀 これも白米と変わりません。実験もしているんですよ。うちのサイトに書いてあったかなぁ?(ありました→https://www.toyo-rice.jp/genmai/)、胃液と同じ成分の液体で実験してみると、テストの結果は白米同様でした。私もおなかが壊れることはなかったです。

夏目 ようするにロウが悪者だったんですね。水を弾くから浸漬に時間がかかる、さらにお米がふくらまない原因にもなるから、食感が白米と違ったものになり、消化もよくなかった。

雜賀 その通りです。ただ、悪いのは人間にとってであって、お米は“食べられまい”として、ロウ層をまとっているんですけどね。

記事は後編に続きます!

後編:ロウカット玄米はどうつくる?